2009年11月11日水曜日

情報処理学会の2009年度の研究会活動から

情報処理学会は,コンピュータ専門の学会としては日本最大の規模を誇る.しかし,これまで情報処理学会はゲーム産業とまったくと言っていいほど接点がなかった.学生のときに情報処理学会で発表した人も,会社に入れば研究会に参加することはあまりないのではなかろうか.


これまでの評価

たとえば日経コンピュータではかつて「日本のIT関連学会は、なぜ機能しないのか」という特集を組んで,情報処理学会を国際学会と比較してやり玉にあげている.また,IT業界だけでなくゲーム産業の評価としても「分野が偏っている」「複数の完全に断絶したグループによって構成されている」「産業界ともパイプを持っている研究者は海外の学会で発表する」と「デジタルコンテンツの次世代基盤技術に関する調査研究報告書」で「惨たんたる現状」が報告されている.さらに情報処理学会のコンピュータ博物館も(国産コンピュータメーカー各社のお手盛りでなく科学技術史の研究者が関与しているのだが),残念ながらエレメカやゲーム機についてはまったく言及されていない.これは欧米のコンピュータ博物館でゲーム展示が行われているのとは対照的である.これだけを見れば,情報処理学会はゲーム産業界がウォッチしたりネットワーキングに参加したりするメリットのない学会と言われてもやむをえないだろう.

このような状況に対して上記記事では「研究者や研究組織を育てるところから始めるしかない」と結論づけており,本ブログもその一助になればと思っている.そこで,本稿では今年の情報処理学会の新しい動向に注目したい.

研究会に注目

情報処理学会は多くの専門分野をカバーしており,実際の研究活動は各研究部会ごとに注目する必要がある.情報処理学会の中でもエンターテイメント応用に関する研究部会には以下のものがある.
  • エンタテインメントコンピューティング研究会(SIG-EC)
  • ゲーム情報学研究会(SIG-GI)
  • ヒューマンコンピュータインタラクション研究会(SIG-HI)
  • 音楽情報科学研究会(SIG-MUS)
また,研究会に属さない活動としては,プログラミング・シンポジウム情報科学若手の会がある.
以下では,主な研究会の今年の活動について紹介する.筆者のカバーしていない話があればコメントしていただければ幸いである.

新たな動き

それぞれの研究会はだいたい年に1回,ワークショップやシンポジウムを開催しており,全国的なネットワーキングの場となっている.これまではゲーム産業はまったくお呼びでなかったのだが,今年のイベントではゲーム産業の存在が表に出てきている.
1. SIG-ECが他組織とも連携して開催するエンタテインメントコンピューティング2009 (EC2009)では,スクウェア・エニックスの研究開発のリーダーをパネルディスカッションに呼んで,CEDECのアカデミックパネルに近い雰囲気を出している.
2. ヒューマンコンピュータインタラクション研究会によるワークショップでは,バンダイナムコゲームスの人を招待講演に呼んでいる.
3. SIG-GIが他組織と連携して今週開催するゲームプログラミングワークショップでは,なんとe-sportsの松井氏が招待講演に登場する.プログラムを見ても、水と油のような勇気ある組み合わせである.

「招待講演は普段聞けない話をしてもらう企画だから,招待講演だけでは研究会が普段からゲーム産業に関心を持っているわけではないよ」と思われるかもしれない.たしかにプログラムを見る限り従来の傾向から大きく変わっているわけではない.しかしながら各研究会のプログラム委員が似た行動をとっていることには意味があるのではないだろうか.(さらに補足すれば、SIG-GIやSIG-ECは大学教員だけで委員を構成している情報処理学会でも数少ない純血主義の研究会である.多くの研究会はイベント委員や査読委員については産業界と大学教員とがミックスされた委員構成をとっているので,比較的産学連携が容易だった.)

情報処理学会が今後も存続するためには,国内外のゲーム産業は無視できないものになると思われる.(本ブログで紹介したように,IEEE,ACM, AAAIはすでに着手している.) 今年の企画が今後の変化につながることを期待したい.またゲーム産業界にも,国内の研究会イベントに興味をもっていただければ幸いである.

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