2010年1月27日水曜日

Global Game Jam の目指すもの

Global Game Jam の目指すもの

IGDA日本でも告知されているが,今週末に Global Game Jam が開催される.
1月29-31日の「Global Gaming Jam」が追加参加者を求めています。現在、全世界134、日本からも2カ所エントリー
日本では第1回のGGJ2009から会場ができて、今年は複数会場で参加者のエントリーを受付中だが,英語ページのためにいまいちわかりにくい.そこで本稿では概略と背景を説明したい.

概略

Game Jam は有志が一ヶ所に集まって2日間でゲーム(のプロトタイプ)を完成させるイベントである.
だが短期間でゲーム開発をすることに,どのような意義があるのだろうか?


まず,開発サイクルをはじめからおわりまで経験できることに意味がある.
IGDA日本でも開発者セミナーや「秋葉原ロケテゲームショウ」を通じて開発プロセスを紹介してきたが,それは開発やテスト評価といったプロセスの一部を切り取ったものであり,全プロセスを体験できるのが Game Jam のよいところである.
実際,ゲームタイトルの開発が大型化長期化したことで,いま企業ではタイトル開発を最初から最後まで経験する場数を重ねることが難しくなっている.その結果,ゲーム開発のプロセスの一部しか経験できずにその分野のベテランになってしまいかねない.

また,Game Jam には単に早く開発するだけでなく,ゲームのプロトタイプには何が必要かを学ぶ機会でもある.ゲームを本格的に開発する前にはプロトタイプを製作するの普通だが,プロトタイプまでは開発したが高い評価を得られず,本開発に進めないことがある(IGDA日本グローカリゼーション部会の特別セミナーでの報告によれば,大手でも半数以上はプロトタイプで切られる).
開発がプロトタイプで打ちきられると,プロトタイプ開発にかけた労力や時間が無駄になってしまう.そこで,ゲームの核心となる部分を的確に取り出し,短期間で評価につなげていくようなプロトタイプ開発能力が必要となる.しかしながら、企業の開発現場では(製品化されるかわからないような)プロトタイプ開発の経験を数多く積むことは難しい。とりわけ従来になかったような野心的なゲームタイトルの場合は、企業内では開発することが出来ず企業の関連ゲームスクールの授業でプロトタイプを作ったという話もある.

背景

ゲーム産業以外の分野では,短期間の開発イベントは早くから行われていた.たとえば学会関係では,ACM OOPSLAと同時開催されるDesignFest, CodeFestがある.これは製品開発よりもコンテストの趣きがあるが,アジャイル開発を普及させる上でも重要な役割を果たしてきたイベントである.また,開発者コミュニティーの中でも,インターネット上の有志が開発するフリーソフトウェア,オープンソースソフトウェアでも一ヶ所に集まってバグとりや新バージョンを開発するイベントがある.それらのイベントは各分野で Coding Marathon, Hackathon(Hack + Marathon), Sprint(Zope方面), PlugFest, debcamp (Debian GNU/Linux方面), などといろいろな呼び方で呼ばれており,コミュニティの交流を深める役割も果たしてきた.
過去には日本国内でもNPO法人のフリーソフトウェアイニシアティブ(FSIJ)が国内のフリーソフトウェア開発者チームに開発場所を提供する"CodeFest"を実施してきた.FSIJではCodeFestを開いた記録を残し,反省/要望もまとめているので,Game Jam参加者にも参考になるだろう.(もちろん参加者はGlobal Game Jamの英語FAQもざっと読んでおくように) 参加者の視点と主催者の視点は異なるので,主催者が記録を残すことも重要である.

ゲーム業界においてGame Jam がはじまったのは,2006年のNordic Game Jam, 2007年の Ohio Game Jam あたりが最初だろうか.Game Jam には教育機関だけではなく,アマチュアのゲーム開発者のグループからインディペンデントゲームの開発会社まで様々な単位でエントリー可能だが,すでに当時からそうした方針が見られる.そしてこれが産業界と教育界とを結ぶイベントとしてIGDAの Game Education SIGで反響を呼び,翌年の第2回 Ohio Game Jam の発表と同時に世界各地で同様のイベントを実施するGlobal Game Jamが発表された.IGDA Game Education SIG のリーダーである Susan Gold がGlobal Game Jamの設立代表をつとめているが,先進的な機関だけが取り組んでいた開発経験を世界中で同時中継共有してしまうこの企画力組織力はさすがだと思う.

2010年の新たな動向

立候補すればGlobal Game Jam の開催地サイトを引き受けることができるが,これにはゲーム開発や開発者交流についての組織的な理解とバックアップ体制が不可欠である.昨年の第1回Global Game Jamには,京都のQ Games社が開催地となり,今年の第2回Global Game Jamは,JAIST東京工科大学という二つの先進的な大学が開催地として名乗りを挙げている(1/27現在、さらに非公開で御所東のサイトも参加).
JAISTのページからは丁寧な日本語の案内や過去の作品紹介も出ているし,Global Game Jam の開発チームブログには,日本語名の参加者も見うけられるようだ.その他にも開発チームブログリンクからは世界各地の参加者の盛り上がりに触れることができる.特に開発が始まるまでは,ドキュメンタリービデオをつくるなどお祭り的なグローバルコミュニケーションが昨年よりも盛り上がっているようだ.

おわりに

Global Game Jam は,教育と実社会との間をつなぐだけでなく,実社会では得がたい経験を積む場もである.特に日本の先進的な大学が参加を募集することで,さらなる飛躍が期待される.寒くなっているので,参加される方も開発中継を見ていたいという人も,48時間、身体に気をつけて参加してほしい.

追記: 2009年のGlobal Game Jam の基調講演(英語字幕のみ)はこちら。


さらに追記: 基調講演の日本語字幕版も公開しました。

1 件のコメント:

  1. 末尾に2009 Global Game Jam のキーノート動画を追加しました。IGDA幹部からのメッセージとともに、2008年のヒット作である World of Goo や Audiosurf の作者からのアドバイスもあります。
     それらの作品の紹介記事はこちら:
    http://www.4gamer.net/games/027/G002744/20090324058/

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