2010年4月8日木曜日

世界同時多発ゲーム開発: Global Game Jam 2010 を振り返る (前編)

去る1月末に開催されたIGDAのGlobal Game Jam 2010では,世界各地の学生やインディーゲーム開発者が週末の2日間でゲーム開発を行うとともにインターネットを通じた相互評価を行った.ここでは日本国内および海外の参加者の様子を報告し,今後の課題について考察したい.

Global Game Jam について

1月の記事「Global Game Jamが目指すもの」でも紹介したように,Global Game Jamは本ブログの親団体でもあるIGDAによる世界同時多発イベントである.
3月に開かれたGDC(ゲーム開発者会議)の Education Summit(人材育成サミット)でもGlobal Game Jamについての報告が行われていた.その発表者の一人,UCSC(カリフォルニア大学サンタクルーズ校)の博士課程の大学院生 Foaad Khosmood は大学院のウェブサイトでもGlobal Game Jamのまとめ記事を書いている.全体の説明はそちらを参照してもらうとして,以下では筆者が個人的に見聞きした範囲で紹介しよう.

日本の大学と同人サークルが初参加

これまで日本の大学がGGJに参加したことはなかった.この理由としては,情報オリンピックや各種ゲームプログラミングコンテストに比べてGGJは学年末試験と日程が近く,また40時間以上の学生イベントを主催できるパワーのある学校も少ないといった事情が考えられる.しかし「Global Game Jamが目指すもの」でも紹介したように,今年の第2回Global Game JamではJAIST(北陸先端科学技術大学院大学)東京工科大学という二つの先進的な大学が開催地として名乗りを挙げ,それらの学校の学生チームがエントリーした.
そして驚きだったのは,同人ゲームサークルぜろじげんが(無料版の開発で?)参入したことだ.GGJは学生だけでなくインディーゲーム開発者の参加も重視しているので,日本の同人ゲームサークルが参加することはGGJの趣旨にかなっていると言えよう.なお日本の同人・インディーゲームシーンについてはここでは説明しないが,IGDA日本の部会SIG-Indieが積極的に取り上げている(新清士「人とインタラクティブの間」 第3回ほかいくつかのメディアで紹介されている).
これに加えて,詳細不明の京都のチームがMac OS用のミニゲームで参加した.こうして,今回のGGJは日本からは大学・大学院・同人という複数のセクターがゲーム開発者イベントに参加することとなった.

開催校訪問

GGJの初日.1月29日にスタートといっても時差があるので,まずニュージーランド,そして日本,アジア,中近東,ヨーロッパ,南北アメリカと東から西へと順次各地のサイトから第一声があがり,開発現場のビデオ生中継やチャットもはじまる.
今回のGGJの国内参加拠点は宮田先生(CEDEC2008スピーカー)の北陸先端科学技術大学院大学・知識科学教育研究センター・宮田研究室,そして三上先生(CEDEC2007スピーカー)の東京工科大学八王子キャンパス 片柳研究所棟 コンテンツテクノロジセンタである.今回は日本時間での最終報告の時間にあわせて,後者の東京工科大学の会場をIGDA日本からSIG-AcademicとSIG-AIの両世話人が訪問した.この訪問の様子はGlobal Game Jam 2010 東京工科大学会場レポートでも読むことができる.
JAISTからの成果発表生中継は鮮明には見えなかったのだが,「Linux上で開発したのかな,さすがJAIST」などと言いながら見物させてもらった.そして東京工科大学の成果発表2作を見せてもらったのだが,40時間では完成できないんじゃないかという我々の予想を裏切ってなんとかプレイできるものを仕上げていた.
これを学生主体でやったのはすごい---おそらく大抵の大学では担当教員がちゃんと指示しないと難しいだろう.ここで東京工科大学のゲーム教育の特色について説明しておこう.ウェブサイトにもあるように,東京工科大学では国からの競争資金を獲得して,4年生のメディア学部ではゲーム制作を授業の中に取り入れたプロジェクト演習を実施しており,さらに大学院メディアサイエンス専攻ではコンテンツ産業に興味あるアジア圏の留学生を募集するプログラムを実施している.つまり,東京工科大学のこのプログラムの履修生は実践的な制作経験に加えて,異なるバックグラウンドや職種のメンバー間のコミュニケーションやコラボレーションのキャリアを在学中に積んでいる.こうしたクリエイティブなスキルはグローバル化の進むエンターテイメント系業界で必要とされるだけでなく,どの産業でも通用するものだという印象を受けた.
両大学ともに,学生チームはなんとか時間内に動くプロトタイプを作った.それだけでも大したものだが,やはり限られた時間でどこまで開発するかという割り切りが難しかったように見えた.
ゲームのプロトタイプを開発する際に,どこを取り出すべきだという切り出し方の正解はない.たとえば,デザインの特徴が出る局面を切り出す場合もあるし,開発者全員が経験を共有することを重視して共同作業が進む局面を切り出す場合もある.これらは一例にすぎないが,短期開発ではリリースまでの戦略を持つことがより重要になると思わされた.

開発だけではない実践的な学び

また,東京工科大学ではゲーム開発環境も整備されており,開発ツールのアカデミックライセンスの制限も把握されていた(つまり,商用や受託のソフトウェア開発も可能な開発環境が構築されていた)ことも個人的に印象的に残った.
なおライセンスの話ということでつけ加えれば,Global Game Jamでは作品を提出する際に,開発者自らがCreative Commons License 3.0 (Attribution-Noncommercial-Share Alike)で作品をアップロードすることを求めている.これは開発者が著作権を保持しながらGGJ参加メンバーがお互い学びあい相互評価をすることための措置だが,学生が英語ライセンスを理解するのは困難なので,日本のクリエイティブ・コモンズから日本版「表示-非営利-継承(BY-NC-SA)」ライセンスや解説文を調べるとよいだろう.開発者が権利を放棄せずに利用ライセンスや開発環境を決めてからプログラムを提出するという手続きは,通常の学校教育では教えられない.しかしクリエイティブ人材の育成のためには社会に出て問題に直面する前にこうした手続きについて考えるのは非常に教育的だと言える.

世界のゲーム教育拠点のさらなる展開

1月の記事でも触れたように、ゲーム以外の業界でも,チャットやビデオ中継で世界を結んでプロトタイピングやアジャイル開発を行う世界同時開催イベントは存在する.しかしGGJほど多くの国から若い参加者を集めたイベントを筆者は知らない.言い換えれば,ゲーム開発者教育の一環としてGGJに参加することはソフトウェア開発やプログラミング教育の中でも特に先駆的な体験ができると言えるだろう.
日本の参加校での成果発表が終わった夜,時差の分だけ遅れてヨーロッパ各地の発表,そして南北アメリカ各地の成果発表がネットで生中継された。そしてアップロードされたゲームのテストプレイや相互評価も進められた.世界中の開発者がつくったプロトタイプをダウンロードしてプレイできることもGGJならではの体験である.筆者はすべての作品を見ることはできなかったが,日本よりも先に教育プログラムを整備させたゲーム教育先進国の層の厚さを見せつけられた.後編ではそうしたGGJの海外参加校・参加企業の成果をGDC(ゲーム開発者会議)におけるインディーゲームシーンも含めて紹介したい.

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