2012年4月22日日曜日

GGJ12をふりかえって: グローバル化するゲームジャムの今後

1月末に開催されたGlobal Game Jam 2012から3ヶ月が経とうとしている. その間に本ブログでは基調講演の解説などを行なってきたが,いよいよGlobal Game Jam 2012についてまとめを試み,今後の参加のための課題をまとめてみたい.

過去最大のゲームジャムのインパクト

ギネスブック認定

Global Game Jam 公式サイトの発表によれば,ゲームに関する数々の世界記録を収録した『ギネス世界記録 ゲーマー編』の2013年度版に,Global Game Jamが世界最大のゲームジャムとして記載されることになった.これはGGJ12のウェブサイトに登録さた47ヶ国の242会場,10,684人の参加者,2,209のゲーム制作プロジェクトについて認定されたもので,もちろん日本の参加者もこの記録樹立に貢献している.

拡大と多様化

これだけ多数の会場で開催されると,もはやGlobal Game Jamで最高スコアがついたゲームだけでもすべて一望するのは無理だ.そしてGlobal Game Jamの方向性もさらに広い幅をもつようになっている.
これまで書いてきたように,Global Game Jamはゲーム専門家人材育成を推進してきたIGDA Education SIGによって進められてきたために世界各地のゲーム教育の拠点校が主体となり, 学生たちはプロに混じってアイデアを競い合っていた.Global Game Jam のトップページに掲げられている「innovation, creativity, experimentation」(変革,創造性,実験)というスローガンはその心意気をよく示している. GGJ logo その一方で,(基調講演でゴンサロ・フラスカが述べているように),ゲーム開発を行なうのに先進国に住む必要はなくなった.また昨年度からボードゲーム部門ができたことでゲーム開発環境を使わないゲーム開発の視点も増え,今年度の初参加の会場からはゲームエンジンどころかツクールでの開発作品も現れた.つまり, 今年のGlobal Game Jam 2012では,先進校が実験的な作品を送り出してゲーム教育をリードする構図がくずれ,より祝祭的になったということができる.

初参加会場の作品のいくつかはlucifuges氏が「Global Game Jam 2012で見つけた気になるゲームまとめ(更新中)」で紹介している.こうした今回初参加の会場は,ゲームエンジン活用とかイノベーションといった従来のゲーム開発者教育の流れとは異質な勢いがあり,いわばロック音楽での「初期衝動」を感じさせる.
もちろん, パンクな新興地域だけでなく,従来のゲーム開発拠点でも本格的なゲーム産業との連携はますます進んでいる.年に一度のお祭りとしてGlobal Game Jamに参加するだけでなく,各地で次のゲームジャムを開こうという動きが盛り上がっている. 3月のGDC12期間中に福島ゲームジャムなどの活動でIGDA日本がIGDA本体から表彰されたのも,こうしたゲームジャムの地域展開を反映している.
そしてカナダのインディーゲーム開発者Game Jam Survival Guideを出版するなど,ゲームジャムは継続的に開催されるイベントとしても定着しつつある,という印象を今年は強く感じた.

ゲームジャム作品の売り込み

ゲームプロデュース面での新しい傾向としては,Global Game Jamのゲームをもとに資金を集めるチームが出てきたことがあげられる.これまでにもGGJのゲームを磨きあげてiTunesやAndroid Marketで公開するのは日本国内をはじめ世界各地で行なわれていたが,今年はダウンロード販売だけでなくGGJでダウンロードできるゲームをもとにさらなる資金調達を行なうチームがでてきたのが新しい.
この背景には,Kickstarterのような資金調達サイトの普及がある.たとえばGlobal Game Jam 2012作品ではないが,GGJ12と同時期に資金調達をはじめたDouble Fineは,目標に40万ドルの調達を大きく越えて24時間で100万ドル,最終的に333万ドル以上(3億円弱)を集めた.(このあたりの背景は「発売未定のゲームに300万ドル 「クラウドファンディング」の可能性」」日経新聞電子版2012/4/4に詳しい.) そしてGGJ参加作品では,たとえばGGJ12開催前の1月に目標資金2,000ドルのところを5,397ドル集めたLangGuiniは,GGJ11のフィラデルフィア会場で制作されたカードゲームだ.GGJ12ではやはりフィラデルフィア会場のVelociraptor! Cannibalism!がKickstarterに登場して目標額の4,000ドルを突破した.
これらはアナログゲームならではのコレクター向けの戦略をとっているが,他方デジタルゲームではGGJ11オレゴン州ポートランド会場のBlinkはクレジット表記やサウンドトラックといった特典をつけて1万ドルの目標額達成. そしてGGJ12シカゴ会場のProppa(プロッパ)がKickstarterでアンドロイド版の開発資金の調達に成功.これはシカゴのデポール大学の学生・日本人教員と, 名古屋のトライデントコンピュータ専門学校の学生によるチームによる作品だ.
ゲームジャムで遠隔開発を行なうのは即席チームを組む際のコミュニケーションの活性化が非常に難しい. このデポール大学とトライデント専門学校の場合,二校は継続的に留学生を送り,さらにシカゴの日本人教員が通訳を担当したようだ.(ただし残念ながら, 名古屋の学生はGlobal Game Jamのサイトに参加登録していないためにギネス認定の参加者に入っておらず,ゲームの著作権者としてもクレジットもされていない.教員の方には実社会を意識した本格的な指導を期待したい.) 

GGJとスキルアップ

職種の拡大

GGJの運営名での新たな傾向としては,公式ウェブサイト上のアカウントやプロフィールをより細かく設定できるようになった.GGJ参加者はアカウント登録の際に自分のプロフィールを設定できる.これは開発チームを編成する際の参考材料にもなるのだが,ここで従来の職種に加えて,今年は参加者スキルに「マネージャー」が追加された.つまり管理職としてGGJに参加するケースも想定されるようになった.
 さらに手の込んだところでは,「オーナー」「コンセプトアート」「スクラムマスター」「アシスタントスクラムマスター」といった現実のゲーム開発現場のステークホルダーをそのままシミュレートした産学混成のリアルすぎるチーム編成をするところまででてきた.これはもはやインターンシップ教育である.
特に日本企業では,ゲーム開発者が管理職になるための社内教育がほとんど行なわれていない.そして管理職には,失敗から学ぶ場所も用意されていない.管理職をめざす開発者や大学院生がチームの顔合わせからリリースまでを経験できる場所が必要とされており,GGJで管理職として経験を積むという企業研修も考えられるだろう.

参加者調査と人材育成

今回は主催者のアンケート調査が実施された.これはサービス向上のためのアンケートかと思ったら,ゲーム教育方面の調査項目も入っていた.おそらく世界最大規模のゲーム開発者調査になるだろう. 回答された方はきづいたと思うが,質問用紙には,自分の専門外の仕事をやったかどうか(たとえばプログラマーがサウンドを担当)を質問し,さらに深くを掘り下げる項目があった.ラグビーやサッカーといったチームスポーツでは複数のポジションでプレイできるような教育を行なう場合があるが,ゲーム開発者教育でもそうした複数のスキルを持つ人材育成を研究している人がGGJの調査に参加しているようだ.IGDA日本でもテクニカルアーティスト(TA)SIGがをどうやってTAを育成できるのかという議論をしているが,ゲームジャムも高度専門職教育に利用することが模索されている.

GGJ終了後に: コメント力の格差

今回は世界各地の会場でスポンサーをあつめて,ゲームジャムの後日に作品のプレイパーティーが行なわれた.ゲームジャムに資金や会場を提供するだけでなく,ゲームジャムが終わったあとも継続的に交流が進んでいる. ここで,Global Game Jamは完成して終わりではなく,プレイした者同士でスコアをつけあい,コメントをつけることでさらに学びを深めることができることを再確認しておこう.これがGGJがただのゲームコンテストは大きく異なる点でもある.アップロードして相互コメントつけるまでがGlobal Game Jamです
今回は,参加国が広がったことでコメント力の差が目についた.いいコメントは,「ここがとてもよかった」といった評価するポイントを具体的にあげている.それに対して残念なコメントは,たとえば「最高でした」といった感覚的な表現が多く,どこが評価されたのかが作り手にはわからず,作り手の参考にならない. おそらく,いいコメントをつける参加者はMDAフレームワークなどゲーム評価についての教育を受けていると思われる.日本でも特にゲームで論文を書く大学院生にはゲーム評価をしっかり頑張ってもらいたい.

おわりに: Global Game Jamで何が得られたのか

Global Game Jamで得られるものは何か.これは各会場の運営方針によって大きく変化するため,共通の回答をとりだすのは難しい.しかしながら主催者が度のような期待をしているかは明らかにされている. 全米のゲーム教育関係者を集めた会議Game Education Summit North America2010の中でIGDAが一日セッションを持ち,その中でFoaad Khosmoodが発表したRepresenting the Global Game Jamが IGDA Newsletterに掲載されている.これはいまのところGlobal Game Jam についての最もオフィシャルな説明資料だと言えるだろう.その中で,Global Game Jamからゲーム開発者が得られるものを次のように述べている.
  1. ラピッドプロトタイピングの開発体験
  2. 失敗から学ぶ機会
  3. 多様な構成のチームで協働する機会
  4. 最新のツールがどう使われているのかを評価する機会
  5. 大学の研究をユーザに評価してもらう機会
  6. 学校や学生のアピールの機会
ここで,「私が参加したチームではそんなチャンスはなかった!」という参加者もおられるかもしれない.たしかに国内でも上記の項目を実現できていない会場があった.実際,会場編成の都合や会場主催者の方針によって,主催者の期待どおりにいかない事は多い.
たとえば,上記の項目をすべてひっくり返しても, 以下のようなゲームジャムは成立する.
  1. 動くプロトタイプをつくれずに提出1時間まえになって動くようになる
  2. 失敗をおそれてリメイク路線で開発
  3. 同じ学部の学生だけ,あるいはプログラマだけのチームしか組めない
  4. すでにつかった実績のあるツールで開発
  5. 学校で習ったことが使えたと終了後に気づく
  6. つくったゲームを投稿しようと思うのだが同意を得るべき共同開発者と連絡がつかない
こうした主催者の期待とは正反対のゲームジャム体験も起こりうるし,そうしたゲームジャムもまったく間違っているとは言えない.ただしこれらの項目のうち,事前に準備していればゲームジャム中に対応できるものもあるのも確かだ.
ゲームジャムは, 会場運営者のポリシーによってまったく異なる体験をデザインすることができるといえる.これからはただ「ゲームジャムに参加しました」というだけではなく, 各会場の運営者に事前質問して「この会場はこういう独自の特色があるので参加しました」という参加報告が出ることを期待している.
最後に, GGJ12の国内各会場の情報と関連記事を掲示して, 参加者およびゲストのみなさんに感謝の意を表したい.
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